これまでなかなか都合がつかなくて、プリキュアの秋映画を上映期間中に観るのは今回が初めてだったりします。
というわけでネタバレありの感想レビューです。
映画ドキドキ!プリキュア「マナ結婚!!? 未来につなぐ希望のドレス」
とりあえず時系列
マジカルラブリーパッド登場以後、レジーナ復活以前の「ブラッドリング編(勝手に命名)」のどこかってことでいいでしょう。こないだの三連休(ニチアサ無し)に観に行くとちょうどいい感じですね。
まずはじめに
ミラクルブーケライトの説明から。センターに陣取って何故かマナと六花に肩を掴まれている亜久里がかわいい(?)。制作時期の都合なのか、今回の映画での亜久里は夏の戦隊映画の追加戦士のそれに近いですね。話には大きく絡んでこない、タイミングのいい助っ人ポジション。アイちゃんと併せて万能っぷりが光ります。
祖母の遺したウェディングドレス
マナの祖父である坂東宗吉と相田健太郎パパンの婿舅関係を見るに、ぶたのしっぽ亭は元々宗吉氏の店であり健太郎が継いだもののようですが、その宗吉氏の連れ合いの姿はこれまで見られなかったわけで。(相田家側の祖父母は多分離れて暮らしているんでしょう)
今回明確に、いすずお祖母ちゃんが既に故人であることが語られます。
夢オチOP
「新しい服(ウェディングドレス)を着て 初めての道(ヴァージンロード)歩く」
もしかしてオープニングの歌詞ってこう言う事だったの!?と軽く戦慄してみる。いやもう今回の映画を見ると1番もだけど2番もそれまでと同じ気持ちじゃ歌えませんね。
ともあれ友人たちに見守られてのマナの結婚式、しかし新郎はイーラで神父はベール、オルガン奏者がマーモで襲いかかってきて結局プリキュアは変身してジコチュー軍団と戦う!という夢オチ。
ここの夢オチとラストの戦闘でそれぞれ「未来のマナの結婚式」が描かれるんですけれど、後者の方がよりリアルに大人びた感じになっているのが面白いポイント。
しかし大人プロポーションでのプリキュアにはならないのか……(誰向けだ)
何故か突発的にクローズアップされた二階堂
日常パートにおいては貴重なマナの批判役である二階堂くん(と子分めいてくっ付いている百田)ですが、「好きな子にちょっかいをかけちゃう男子」であったことが確定。
六花はもちろん真琴ですら悟ったのに当のマナ会長は全く気付くことなく、お祖母ちゃんから習った勇気を出すおまじないを伝授(掌にハートを書く)してしまうという……
第一話に出てきた「掌にハートのおまじない」や第7話でベールに言い切った「もちのろん!」などはお祖母ちゃん直伝だったことが語られ、その存在の大きさが窺えます。
とりあえず今回の出番はここだけだった二階堂くん、頑張れ。
過去の話、未来の話
下は5歳から上は65歳まで持ち込まれるありすお嬢様のお見合いの話、って上下が両極端過ぎて政略結婚の匂いを隠しもしないよ! もっとオブラートに包めよ! 足して2で割っても35歳だから14歳相手はアウトだけどな!
四葉の一人娘として生まれてしまったありすお嬢様は多分こういう政財関係の話が付いて回るんだろうけれど、当人がそれをスマートに受け流せる強さを持っているのはやっぱりマナと六花のおかげなんだなと。
そして、語られそうになったけれど引っ込められる、かつてのマナの愛犬マロの話。当事者はどうだか分かりませんが、ストーリー的なトリガーはこれですよね。
思い出の国の王マシュー
マシューが奏でるクラリネットの音色が、捨てられ忘れられながらも、まだ働けるという思念を宿した器物に命を与え、空に巨大なクジラを浮かべる。
そして、クジラから伸びたカメラのビームが人々を思い出の世界へと吸い込んでいく……しかもマシューはマナをピンポイントで標的視していた。
観客にはこの時点でもう正体半分分かってるんだけど、あまりに面影無さすぎで気付けって方が酷だよマシュー!
現在使われていない思い出の物品がクジラに吸い寄せられた影響で、菱川家の窓がアップライトピアノに突き破られたり、クジラビームで四葉カーが爆発四散したりしたのはちゃんと後で修復されたものと思われます。
そして人々はクジラにアブダクションされ、幸せな思い出のフィルムに閉じ込められる。それは人々から、世界から未来を奪う行い。
プリキュアVS思い出三怪人
この時点でエースが全く合流していないので、変身~名乗りが4人バージョンだったりします。パープルバギー、シルバークロック、マネキンカーマインとの戦い! この「忘れ捨て去られたモノとの戦い」ですっかり最近見なくなったトゥインクルダイヤモンドとかホーリーソードとか出てくるのは果たしてわざとなんだろうか……
三怪人は物理ですぐさま粉砕されるが、マシューの奏でるクラリネットの音色が響く限り再生を続ける。ならばとラブリーフォースアローでマシューを狙うがこちらは防がれ、プリキュアは逆に変身解除に追い込まれる。
救援に駆け付けたセバスチャンとプリキュア4人はフィルムに閉じ込められたのだった。
しかしやっぱり四葉カーには煙幕機能もあったか……
残された妖精たち
ドキプリはパートナー妖精も個性豊かというかアグレッシブで自立心が強い(というか一人大人がいる)こともあり、自分たちでマナたちを助けなければと意気込むものの為すすべもない。
そこに現れた謎の妖精――ベベル。マシューとは長い付き合いと語る彼女は、マシューたちの企みとその対策を語る。
マシューの正体に気付けば連鎖的にべベルの正体も分かるわけですが、両者とも徐々に正体を観客に悟らせていくプロセスが丁寧です。
思い出の世界
マナが目を覚ますと、そこは小学4年生の時代だった。祖母が――そして愛犬のマロが生きている、時代。
この世界から脱出せねばならないとしっかり理解しているのに、感情が祖母とマロから離れることを拒んでしまう。
六花はピアノの発表会。普段長時間一緒にいられないことの多い両親を珍しく独り占めできる一日。
ありすお嬢様は父に連れられて行った社交界デビューの日。
真琴は戦士として選ばれ、キュアソードになった日。
こうして見ると、マナも含めて四人とも、何かが喪失、あるいは欠如している状態にあって、その中で前向きに生きている子たちだと分かります。
六花とありすは死別ではないものの親と触れ合う時間が少なく、マナは祖母と愛犬、真琴に至っては祖国丸ごと失っている。そんな彼女たちだから、満たされた世界に囚われてしまう理由がある。
……となると、プリキュアとしての身の丈を超えた使命感を持っているものの具体的に自身が何かを喪うまでの人生経験を積んでいない亜久里がここまでストーリーに絡んできていないのも道理か。
ウイングスーツ大作戦
ベベルの説明を受けたシャルルたちは四葉タワーに灯りをともし、マシューの巨大クジラを誘き寄せる。そしてウイングスーツに身を包んだDBが他4体を抱えてダイブ!ダークサイドムーン!! 夜空を高速滑空してクジラに潜入すると今度は襲い掛かってくる雑兵マネキンをDBが華麗なキックで撃破!
……DBさんマジ有能ですわ。そしてマナたちが捕らえられた映画フィルムを探すものの、マナのフィルムは既に確保されており、妖精たちは一転囚われの身に……
いやぁしかしDBさんの緊縛シーンがあるとは(こら)
時の止まった者、未来へと進む者
マシューはマナを、ずっと思い出の世界に留め置きたかった。彼女が過去を置き去りにして、未来に進むことを認められなかった。
だがベベルの指示で、DBが変身を解くことでロープの拘束から逃れ、シャルルたち四体はそれぞれの思い出の世界へダイブする! この瞬間まで誰もDB=ダビィとは気付いてなかったわけで、本当に有能というか万能です。
囚われの心
基本的に幸せな日々のリフレインに浸っていた六花たち三人とは異なり、マナの世界は不穏な方向へと進む。
祖母の入院。よく転んだり倒れたりすると祖母を心配していたマナの台詞や、現代にいすずお祖母ちゃんがいなかったということは、ここから程なく弱っていって亡くなってしまったのでしょう。オブラートに包むようで全然包まない、えぐいくらいに切り込んでくるなぁこの映画。
その帰り道にシャルルと再会したマナは、祖母とマロに別れを告げてけじめをつけてから脱出しようとするが、ぶたのしっぽ亭に帰宅したマナを待っていたのは愛犬マロの事故死だった。
喪失を再体験してしまったマナは、心折れて思い出の世界に逃避してしまう……
映画のフィルムという媒体に閉じ込められていることもあって、ここで「END」が出るのが本当に心臓に悪い。
単に幸せな世界に留め置くのではなく、後悔や絶望を突き付けて心を折りにいくのが実に非情なようでいて、マシューの正体を念頭に置くとこれが「歪んでしまった愛情」だと分かります。
六花とありす
何でこの二人は接触出来たんだろう……とまれ、マナを介して知り合ったような二人だけど、このコンビもまた幼馴染の親友同士。面識のないはずの世界で再び巡り会い、足を止める二人。そこにラケルとランスが降ってきて顔面激突、二人は元の心と姿を取り戻す!
そしてやはり、「今」の二人があるのはマナのおかげであるわけで。バギー&クロックに対し、ダイヤモンド&ロゼッタが立ち向かう!
真琴の再起
こちらはダビィと再会することでトランプ王国のスタジアムがマネキンの立ち並ぶ空間に。こちらは王国が(復活の可能性があるとはいえ)滅んでしまったことを再体験しちゃったわけで、真琴も心折れそうになる。
しかしダビィの叱咤で立ち直る辺りは、マナとシャルルの関係とは異なり、真琴とダビィが同じ経験を共有する関係だからっていうのが大きいのかな。
本編だと「歯医者のドリルを受け止めながら気持ち早口」という形で再登場しちゃった決め台詞が、まともなバージョンで出てきたのが嬉しいところ。
新技披露
合体バギークロックの前に苦戦するダイヤモンド・ロゼッタ組だったが、冷気を放射して敵を氷結する、トゥインクルダイヤモンド系最上級技のダイヤモンドブリザードで合体バギークロックの動きを封じ、ロゼッタのロゼッタリフレクション・ダブルクラッシュで物理粉砕!
ありすお嬢様、本当に浄化する必要のない相手には強い。流石に突発的に強力技を放ったからか、二人とも力を使い果たして倒れてしまいましたが。
愛は時空を超えるのです!
マネキンカーマインの前に苦戦するキュアソードを救ったのは、キュアエース&アイちゃん! どうやって来たかと言えば、愛の力で来たという。
まあうん。きゅぴらっぱ~発動なら多分なんとでもなる。キングストーンフラッシュみたいなものか。
キュアエースの援護を受けてソードは新技アルティマソードでマネキンカーマインを撃破するが、最期の力を振り絞ったカーマインの自爆でソードとエースは戦闘不能に……
エンドレス7月31日
もしかしてこの世界でマナのご近所さんが菱川家から「謎の外国人ジョン・スミス」になっていたのって……て、これは穿ち過ぎか。
喪失の悲しみを改めて感じてしまったから、マナの心は思い出から離れられない、現実に帰れない。そんなマナの部屋にいすずお祖母ちゃんが訪ねてくる。
苦悶を口にするマナに、お祖母ちゃんは「困った人がいれば手を差し伸べ、ともに未来に進もうとする気持ちが愛だ」と語り、掌にハートのおまじないを教える。
この映画は、「共に進もうとする愛」と、「ともに居てほしいと束縛する愛」の物語。
祖母の愛はマナの中に息づき、これからもともに進んでいける。
元の世界に戻るための、変身。
マシュー=マロ(=マシュマロ)
マシューの正体は、死んだマロ本犬だった。もう「マシュマロ、マロ、マロ♪」をどんな顔して聴いていいか分からないよ!
巨犬の姿となり現実世界への脱出を果たしたプリキュアに襲い掛かるが、本命はあくまでもキュアハート=マナ。
だが、マナは真っ向からその牙を受け止める……え。プリキュアって、流血アリだったの?
ハートキャッチからしか見ていないんでプリキュア研究サイトを参照しましたが、プリキュアの流血はこれが初めてだったようです。
そうまでして、マナはマシューの気持ちを受け止め、受け入れ、マロを抱き締める。
クラリネットの誘惑
捨てられた者たちを唆した黒幕は、クラリネットだった。マナと許し合うマシューを自分の側に再び引き込もうとするが、マシューは毅然とそれを拒む。
「マシューじゃない……マシュマロだ!」って言うのが色んな意味でたまらない。谷原章介氏、美声だしね。
そしてクラリネットはクジラを駆って全てを破壊すべく未来へと飛び、プリキュアとマロはあえなく落下してしまい、ついでにエースも変身解除されるのだった。
気になって劇場でおおざっぱに測ってみたところ、だいたいプリキュアたちがフィルム外に出てから変身解除までが5分。想いの力で一時的に急成長しているキュアエースは、「思い出」で形作られたフィルム空間だと時間制限が存在しないのかも知れない。
あれだ、アンダーワールドで活躍できるウィザードラゴンみたいな。
ミラクルブーケライト
時はひと繋がりになっているため、未来が破壊されれば過去にも波及する、という理屈を採用しているようで、クラリネットを追うには伝説のミラクルブーケライトが必要となる。
そしてミラクルブーケライトはアイちゃんがきゅぴらっぱ~と出現させ、亜久里はスクリーンの前の観客に一緒にライトを振るよう要請する。
なんかもう亜久里&アイちゃんの全力投球何でもありっぷりが清々しい。ドラマ的にはブーケライトのくだりを丸ごと削除しても実は問題ないので(クラリネットを追い掛けて未来まで来ちゃった、で済む)、亜久里たちの存在を使って力技でねじ込んできたような気がせんでもない。
マナの結婚式
当然と言うべきか、相手が誰かは明かされず。真琴が普通に参列しているってことは、トランプ王国とは普通に行き来できるってことか。オールスターズNS3が控えていることを考えればそこら辺を気にするまでもないんだろうけれど。
現代から飛んできたマナたちの前でその時間を止め、触手を生やしてタコのようになったクジラが襲いかかろうとする。決戦が始まる!
決戦
CGでグリグリ動いてくれますが、頭身がちょっと低くなっている印象。これはこれで見応えがあるのでよし。エースがあくまで上から目線でマナの判断を支持し、六花たちは半ばぼやいて呆れながらもそれを全力で支える。
犬モードで駆けるマロがクラリネットの居場所を探知し、六花たちの援護を受けてマナとマロが突入!
エクストリーム犬の散歩
クジラ内のトラップをサクサク乗り越えながら、旧交を温め合う二人。クラリネットのいる空間に辿り着き、六花たちも追いつく。
しかしラブリーストレートフラッシュはクラリネットには通じない! 見た目は単なるクラリネットなのに強い!
そしてマナを庇い、マロが斃れてしまう。
キュアハート・エンゲージモード
白いプシュケーとなったマロと一体となり、キュアハートは進化する。
「マナ結婚!!?」というサブタイトルやウェディングドレスのようなデザインから「Engage=婚約」と誰もが解釈したと思いますが、実際の意味は「約束」か、さもなくば「接敵・交戦」かも知れない。
クラリネットもまた捨てられ忘れられた者の怨念を理由に人々から未来を奪おうとする者なのですが、そのためにマロを表向きの犯人に仕立て上げるという手段を取りなりふり構わず未来を潰しにかかる辺りは、怨みの中の悪意の凝縮体のようなものだったのかも知れない。
マナはブーケから変化した弓矢で、クラリネットを射抜く!
思い出の中で
「相田愛(マナ)」の名付け親はいすずお祖母ちゃんだった。お祖母ちゃんいいところ全部持ってっているような気がする。相田家側の祖父母は果たして出てくることはあるんだろうか……
フィルムから解放された人々の魂が戻っていく。これで人々が物を大事にするかは分かりません(古い物にいつまでも囚われずに新しい物を得ていくことも大切ですし)し、多分そこはプリキュアが解決・救済する問題でもないのでしょう。
「もちのろん」。ベベルはマロのプシュケーを連れて、天上へと旅立っていく……
そして
そのままTVよりちょっと尺の長いエンディングから、オールスターズNS3「ラストステージ」の予告!
うむ……オールスター商法は捨てるに捨てられないとは言え、本気で人数膨れ上がり過ぎなのでどこかで区切りを付けた方がいいとは思うんですが、さてどうなることか。
総括
単体映画としてはプリキュアシリーズ最長の上映時間となったらしい今回ですが、なるほどストーリーという点ではかなり充実した物になっています。ストーリーの根幹に関わらなさそうな部分が省略、あるいは巻きで描写されていたり、ラストがあまり余韻のないままエンディングに突入したりしているので、初期稿段階で上映可能時間を相当オーバーして、ギリギリ詰めたんだろうなぁと推測。DC版が出るなら欲しいですね。いや、本当のところがどうかは分かりませんが。
今回は「マナの、祖母と愛犬を失った過去」を軸に、愛犬の思う「自分とともに居続けてほしい」という願いと祖母の「自分の想いを継いでともに連れて行ってほしい」という考えを提示し、「過去に囚われるのではなくともに未来に繋ぐ」という道を指し示していて、「ジコチューと愛」の作品構造に対する一定の解を見せています。
本編の決着がどうなるか楽しみにする上での、一つのガイドと言えるかも知れませんね。